◆ 飛行機は20世紀に生まれた “空飛ぶ国家” ◆ ~ Go To Sky ~

滑走路からぐんぐんと加速し、迷いもなく力強く飛び立つ飛行機の雄大さに、各パッセンジャー達は確かなる安心と信頼感を覚えるのではないでしょうか。筆者もその一人です。

日本の Go to Travel 政策は、10月から東京も加わり2021年1月まで維持されることになりました。このお陰もあり少しずつ中小の観光業界も活況を帯びてきています。
また、政府は旅客需要が落ち込む航空業界の救済のために、航空使用料の軽減などの措置をとり、インフラである航空業界をバックアップしていますね。

今年低迷している航空業界ですが、航空運輸は世界の経済発展にこれまで大きく貢献してきています。
20世紀の航空運輸の動きは  “時代を先取りするグローバル企業の経済活動の指標” として世界の経済・貿易の先行数値にもなり、世界経済を急ピッチに拡大してきました。

20世紀の経済発展の要因のひとつは、人や物資を運ぶこのような航空業界の精巧な仕組み造りにあったと言えます。
そして、多くの人々に地球規模がどんどん小さくなっていく感覚を与えたのです。

■インドネシア・ガルーダ航空の飛行機

さて、人類が2本足のほかに、空飛ぶ翼を手に入れるようになったのは、1903年に米国のライト兄弟がガソリンエンジン付き飛行機によって、12秒間で37メートルの空を飛ばせた事がきっかけでした。

日本での最初の航空運輸は明治43年(1910年)に公開飛行が行われた後、それからしばらくは軍用機に利用され、民生用として利用され始めたのは大正6年(1917年)の郵便輸送機からでした。

そして、一層の技術革新により機材の大型化、スピード化で輸送能力は年ごとに拡大すると共にコスト低減をもたらしたので、運航回数、安全性、高速性も確立され地球内の物資を迅速に運ぶことができるようになりました。
そして、運搬手段と成長した航空運輸は、人類の重要なインフラとして社会的信頼を受けたのです。こうして航空運輸による地球規模の経済は一層大きく発展していった背景があります。

経済発展に寄与した航空業界は、WTO(世界貿易機関)の貿易分類においては、下記の2.の理由により特殊産業と位置付けられ、3.国際租税条約でもそれに沿った形で課税する形をとっています。

 

1.飛行機は ”空飛ぶ国家” として・・・

飛行機は、“旗国主義”という方法で、国家管轄権が定められています。
それは、まるで “空飛ぶ国家” と言えます。

一方、飛行機は空を自由に気持ちよく飛行しているように見えますが、実は各国の領空を飛んでの経済活動であるため、世界的な条約に基づいて多くの規制を受けることで各国家間の条約に縛られています。
ゆえに法律上は動く国家としての責任を背負っているのです。

複数国家の領空を飛行する飛行機は航空法(航空公法と航空私法)で規律されています。その中のシカゴ条約(国際民間航空条約)第17条では、登録主義を採用しているため飛行機を登録する… という事で国籍を取得し、国家管轄をもち、その国の法令を受けるという不思議な決まりになっています。
この管轄権を<旗国主義>と言いますが、同時に民間航空機として認定され国籍をもつことで、飛びながら領土が延長されているような性格を有します。
(※シカゴ条約は、民間航空機だけが対象であり、国・自衛隊の航空機は対象外(条約3条、57条~59条))

航空法では、このように一国の上空に主権が及ぶことを <領空権> と呼んでいますが、どのように他の国に乗り入れるかの運行形態は各国との条約で約束しています。
具体的なその形態は、民間航空の規則であるシカゴ条約上の基本形9種類の<自由権>で定められています。 第1,2の自由権は外国の領空を自由に通過する<通過権>、第3~第5の<運輸権> は郵便、旅客、貨物を輸送する自由権、それ以外を<以遠権>として公式にしています。

それ以外の第6以降の自由権は、二国間で結ぶバミューダ協定のように、国力や市場原則を交渉しながら権利を交換し条約を締結しているのです。このように運輸権の存在や両国の関係の良好性により、領空権は尊重されているのです。
こうして航空業界独特の「自由による管轄権」効果によって、動く国家として管轄権は凌駕され、商流を迅速に拡大しながら各国の緊密度は高まりました。

一方、近年米国は領空権の考え方を受け入れず「空の自由化」を主張し、EU間でも同様に「オープ・スカイ協定」を締結しています。
日本も2013年には<オープン・スカイ協定>に参加するなど、世界の航空市場は自由に広がりはじめたのです。これによってコードシェアリングが増え航空会社のアライアンスの提携が深化していきました。

このため飛行機がもつ<国家管轄権>の自由化により「空の自由」は国際民間航空路線網の基本的構成要素となり、競争は激化の一途になっています。

 

2. 航空産業 と “世界貿易機関”   
(WTO : World Trade Organization)

WTOでは貿易に関する国際ルールを決めています。
その中で航空業界のような特殊業種は、国際法上の管轄権をそのまま当てはめないことを理解して産業の区分をしているのです。
それは、ある国に進出する産業はその地域の免許や許可などの行政要件をクリアしているし、1.のように産業界内の二国間内でちゃんと条約を締結している事が理由となっています。

つまり、国際法では、域外適用として個別のプレゼンス(所在)がなくても、自由な管轄権を受け入れるという柔軟的な姿勢をとっていると言えます。

★次の表はWTOのサービス分類表の概要です。

モードの説明)
第1モードは、各加盟国の領域から他の加盟国の領域へのサービスの提供、
第2モードは、各加盟国の領域におけるサービスの提供であっても他の加盟国のサービス消費者に対して行われるもの、
第3モードは、各加盟国のサービス提供者によるサービス提供であって他の加盟国の領域内の業務上の拠点を通じて行われるもの、
第4モードは、各加盟国のサービス提供者によるサービスの提供であって他の加盟国の領域内の加盟国の領域内の加盟国の自然人を通じて行われるものを言う。
➣ 第1モードを「越境取引」と言う。

この中のサービス分類の第1モードは基本的な「越境取引」になり、国際輸送、国際通信、国際通販等はこの特殊産業サービスに該当しています。

つまり、国際輸送、国際通信郵便、ほかに金融等の特殊な産業は、もともと産業が各国の市場に参入するための規制、料金規制等について地域の合意をとりつけて行政許可を通過するという手続きを得ているため、国際法の国家管轄権からはずれた取引(域外適用)とみているからです。

昨今のデジタル取引も、通常の意味で何らかの国境を越えた取引により成り立つサービスと言え、WTOの産業区分では第1モード区分とも考えられますが、何らかの拠点を通じて外国でサービスが提供されるビジネスモデルであれば、モード3やモード4に該当する事になります。

同様に<空の自由>を得た航空業界でも、事業体制を変更し新規事業にシフトする場合は、このような歴史的なWTOの産業分類の特殊産業の考え方をくみ取りつつ、いかに最低限必要な枠組みを確保するかは、次の3.の課税管轄権まで含めた新しい課題として生じ始めるかもしれません

21世紀の経済取引が国境をこえた態様の変化に伴って、WTOの産業分類も大きく変える必要がありそうです。

しかし、特に免許などの規制がないままに、市場アクセスが自由化された場合は、今度は各国の事業者間では独禁法(競争法)からの管轄権の課題が起きることも予測できます。
サービス貿易をめぐる「管轄権」の適用の問題は、輸入国内にある事業所の管轄権行使の範囲や、市場アクセスの自由化に伴って外国の事業者に対する事業規制をいかに行うかというような問題として生じることになります。

★ Google ★
先月10/20に米国から提訴されたGoogle訴訟も、各地域の公告事業者からの独禁法(競争法)に抵触しているとのことがきっかけです。Googleはこれに対して今後3年間の補助金10億ドルを中小公告新聞社に支払うという対応策をとっています。

いつも、いろいろな意見はありますが、売上が激減している中小企業に補助金を支払Googleは、まるで気前のいい政府(神)のような存在だなあ・・。と筆者はあらためて思ったところです。

 

3.航空産業 と “国際租税条約” 

航空産業についは、国際租税条約においても特別な規定となっています。
国際運輸の特殊性から、OECDモデル租税条約第7条に規定する「事業所得課税」の例外として、航空機の運輸からの利得は「実質的管理の場所」が存在する国のみに排他的課税権を認めている(第8条第1項)のです。このような条約に基づいて二重課税を排除しています。

ただ、企業の実質的管理の所在がある国が、航空券を運用する企業の居住地国と一致しない場合もあるので、居住地国での課税を望む条約の締約国は「一方の締約国内にその事業の実質的管理の場所を有する企業」について、「一方の締約国の企業」または「一方の締約国の居住者」に変更することもできるようになっています。

ほかにも、発展途上国との租税条約では、その往来が一方的であること等を理由として、居住地国のみならず、源泉地国にも課税権を認めた上で税額の50%を軽減しているものもあります。
また、国際運輸事業所得の源泉地国免税は、租税条約とは別に国内法に基づき交換公文等の形式で行われることもあり、租税条約と交換公文書の両方が存在する場合には、交換文書による相互免除は、租税条約による相互免除を補完する取り扱いです。その後、第8条と第7条との優先関係及び国際運輸業以外の事業にも従事する外国企業の国際運輸業に係る費用の控除を明確にするための改正や修正も入り、“国際運輸事業の利得の課税原則” は現在も存続されています。 (参考文献:下記OECDモデル租税条約)

我が国でも航空サービスは二国間協定により規制を受けているため、先に述べた「運輸権」については、WTOサービス貿易協定での航空法による国際航空サービスと切り離す取り扱いになっています。またそれを踏襲して外国の航空会社と各国との二国間協定で決められた権利内で乗り入れを行っている場合は、さらに国際航空サービスにおいての「運輸権」と「運賃等」をそれぞれ別に規定しサービス貿易は適用しない取引処理で区分けする産業区分になっています。

このように、国際課税と国内課税においても、航空法のように特殊な二国間規定がなされているようなケースでは、それに沿った課税主体を決め課税方法の枠組みができていたのです。

    ~~~ おわりに ~~~

さて、どこまでが空(国家の領空)の範囲だと思われますでしょうか。
空の法律(空法)には国家の主権が及ぶ <領空> いう概念がありますが、様々な空の法律問題を解決するためにはこの領空の堺がポイントになります。この境界までが国の法律が及ぶところだからです。

実務的には「国際民間航空条約」(以下「シカゴ条約」という)で用いられている“airspace”という表現に着目し、国家主権の及ぶ範囲は地球の空気が含まれる空間もしくは地球の大気圏(atmosphere)の限界(海面上100㎞)に制限されるとする考え方や、重力が届くところまでなどいろいろな説があります。しかし、これも大気空間もしくは大気圏がどこまでを示すのか定かではないという問題点があります。⇒(空間主義)
一方では航空機が最大限に飛行できる高さを<領空>とする考え方もあります。⇒(機能主義)

・・・結論としては、空の範囲はさることながら、いまだにその上の宇宙の境目も決まっていないのです。
ですので法律の問題解決はケースバイケースということになるのでしょう。

■ ANA FLYING HONU <空飛ぶウミガメ>


(出所:https://www.ana.co.jp/ja/jp/hawaii24/airbus380/
*ハワイでは海ガメは神聖な生き物とされ見ると繁栄が訪れると言われているそうです。
*ANAは2020年11月15日(日)に、「ANA FLYING HONU」の遊覧時間を延長し約3時間で運航するとのこと。12月運行も継続計画中。(Fly Team https://flyteam.jp/ 
※11月6日から日本からハワイへの観光客は陰性であれば 自己隔離が免除されるようです。
(日テレNEWS24 10/28)

かつて、航空業界は、企業同盟や共同電算情報交換、ハブと集中スケジュール等の精巧な仕組みを完成させて、短時間で市場に高品質を届けるこができるようになったことで、20世紀の企業の収益確保を早期実現化させて競争力を有利にしました。
こうしてグローバル市場の拡大を実現することを叶えてきた側面を持っています。

21世紀になり、欧州航空業界では、温室効果ガスを空に排出しないと言う水素燃料を使った”商用エアバス”を発表し”航空機の歴史的な転換期”が始まったことを示唆しています。(BBC NEWS/Japan Sep.22,2020)

一方、今年からビジネスでは、テレワークの普及で海外との交渉がTV会議で可能になったため航空需要は減少の一途です。しかし、海をわたっての人や物の移動は航空機を使わないと、やはり目的地には辿りつけないのですね。

かつて経済をけん引してきた媒体は、19世紀は大洋航海業で、20世紀は航空産業でした。21世紀はデジタル産業かもしれません。
しかし残念ながらデジタル産業は、まだ人類を目的地に運ぶことはできません
コロナであっても、人類は物や人の移動のためには、まだまだ飛行機にお世話になりそうです。

重要なインフラである航空産業に  ”ピンチをチャンスに変えることができるしぶとい底力”  が眠っていることを期待したいと思います。

“瞬き”をする度に、1年が過ぎ去っていくようなスピード感覚を多くの人も筆者も覚えます。
しかし “20世紀は確かに今に生きており、そして21世紀も今に収まっている” のではないか。。。そう筆者は思います。
…ミライのために今を頑張り今に生きる‼…

★ The past & the future don’t matter. What really matters is the present ! ★

文責:金田一喜代美

※法務全般にわたる記述は2020年現在に基づいたガイドラインにとどまります。
実際の法務・税務的判断はお近くの専門家にお尋ねください。

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<参考文献>
*日経ビジネス/ しぶとい会社 2020.10.26 No.2063
*PRESIDENT/株・投資超理解 2020.10.2号
*国際航空貨物運送の理論と実務(同文館)
*業種別会計実務 運輸 (中央経済社)
*国家管轄権と国際租税法(租税法学会)
*租税条約の論点(中央経済社)
*OECDモデル租税条約コメンタリ-逐条解説(税務研究会出版局)
*航空行政序説(2)/第8巻第2号(地域政策研究)
*外務省HPより//CPC(Provisional Central Product Classification):暫定中央生産分類
(統計文書M第77号,国際連合国際経済社会局統計部,New York,1991年)
*ANA faces bumpy flight in COVID-19 storm (The Japan News : Oct.19,2020)
*INCOME FROM INTERNATIONAL TRANSPORT:UPDATING OF THE COMMENTARY TO THE OECD MODEL TAX CONVENTION, Final version 15 Dec. 2004.
*TAX TREATY ISSUES RELATED TO EMISSIONS PERMITS/CREDITS, Adopted by the OECD Committee on Fiscal Affairs on 26 June 2014.