■□ 個人のための租税条約(源泉所得税)□■

1つの収入に対して、2つの国で税金を払わなくて済むようにするために、モデル租税条約があります。
この租税条約は、多国間ではなく2つの国どうしで結ぶために、今では世界中には網の目のように数千という二国間租税条約が張り巡らされているのです。

しかし、基本となるOECDモデル租税条約は、所得税と法人税の税金の調整を目的しているため、消費税のような間接税、相続税の二重税控除などは定義されていません。

ですので、相続税などは国どうしでオリジナルな租税条約を締結しています。そのようなことから、日本は、唯一アメリカとだけ相続税の租税条約を締結しています。

この、租税条約を検討して手続きをすることで、両方の国で払ったものを、その人が住んでいる国(居住地)で還付してもらう、または最初から一方の国では徴収しないことが可能になります。

◆この一連の租税条約の適用方法について、
  Ⅰ. で具体的なパターン、
  Ⅱ. で国際源泉課税の一覧、
  Ⅲ. で具体的なあてはめ、
  Ⅳ. でまとめ
として簡単に記載しています。        作表と図は筆者作成

   Ⅰ. 二国間課税の回避パターン例 3 つ  

次に2か国の所得税でかかる場合簡単な例示を3つ記載しました。設例では、
日本の方米国の方豪州の方 の3人がそれぞれ日本の所得に対して、自国と二重に所得税がかかる場合の回避する基本的な流れになっています。(例外取引やイレギュラーの場合は除きます)

※上記の補足や参考として、★Carried Interestとは  ★恒久的施設(PE) ★投資信託の日本の税率  ★豪州における外国人の居住用不動産上乗税は末尾に記載。

    Ⅱ.   国際源泉課税と租税条約    

◆ 源泉徴収が必要になる所得 ◆
それでは、非居住者は日本においてどのような所得に対して源泉徴収されるのでしょうか。それは個別的に下記の表のようになっています。

  ➣この表からBさんは9号に該当する所得であり、Cさんは7号に該当する所得であることがわかりま
   す。それぞれの軽減された税率は20.42%になります。

◆ 租税条約の判定 ◆
つぎに租税条約を検討して、該当すれば減免申請をすることで源泉徴収なしが可能になります。 次のフローチャートで判定できます。

  ➣チャートからBさん、Cさんとも源泉徴収対象ですが、Bさんは租税条約の減免の対象となりC
    さはPEなので、租税条約ではなく申請により免除対象になる事が判定できます。

  Ⅲ.  具体例にあてはめてみる      

A,B,Cさんそれぞれに判定と手続きを当てはめると次のようになります。

◆ Aさんの手続きの流れ ◆
1)日米租税条約の適用ができる
日米租税条約の適用を受けると、源泉地国(米国)の配当や利子については免除になります。日米租税条約は2019年に一部改正があり、投資所得の免税措置が下記の表のように拡大されています。

2)租税条約による申請 
日本人Aさんは、米国での配当収入が発生する年の確定申告書と一緒に、FormW-7申請書によりITIN(納税者番号)を取得し、同時にFormW-8BENというIRS様式の「条約届出書」を支払者に提出することで、米国源泉徴収税の免税措置を受けることができるようになります。

◆ Bさんの手続きのながれ ◆
それでは、次に米国人Bさんが減免を受けるまでの流れです。

1)日本での個人の所得税の納税義務者
まずは、Bさんが日本で所得税の対象者となるかどうかを検討することになります。
★居住者と非居住者とは?(所法2①三・五、5①②、7①一.三、164①,164)

※ なお一般的に、居住者のうち非永住者と判断される方は、課税所得が一部異なりますが、源泉徴収の対象となる所得と税率は同じなので源泉国際課税の実務では同様にすることになります。

2)租税条約による軽減・免除制度 
次に、Bさんの源泉徴収対象の国内源泉所得は、条件にあえばと「租税条約に関する届出書」を提出することで軽減・免除を受けることが可能になります。

      ➣パターンBさんは非居住者の設定なので、その所得は上記9号の配当所得になり源泉徴収の対象と
   なりますが、租税条約の軽減対象なので、「届出様式1」を提出することで、源泉地国日本で軽
   減・免除受けることができます。

※実務的には日本の支払者が準備してBさんのサポートをするようになります。

◆ Cさんの手続きのながれ ◆
1)非居住者が日本で所得を得る形態
非居住者は大きくわけて次の3つに区分されます。

① 日本に拠点を置いて、それを通して取引するパターン(恒久的施設
② 日本に拠点なく、海外の本拠地から日本に直接取引するパターン
③ ①があっても海外の拠点からも直接日本へ取引するパターン
(恒久的施設:所法161①一、法法138①)

これより従業員などではない非居住者である方は3つの居住形態パターンで源泉所得課税の方法が異なります。

   ➣パターンCさんは①の形態をとっていますので、原則的には日本で源泉徴収が生じます。

2)源泉徴収免除制度
Cさんは非居住者として源泉徴収されるのですが、居住者と非居住者はPEの所得では源泉徴収の対象が異なるため、課税に不公平が生じてしまいます。このため、PEがある非居住者は税務署に申請書を提出し、「源泉徴収の免除証明書」の交付を受けて、それを国内源泉所得の支払者に提示すると、居住者と同様に源泉徴収しないような状況にできる制度になっています。(所法180①、214①)

(条件)
ただ、次のような免除の条件があります。
1.PEの所得であること
2.上記表の免除対象の国内源泉所得であること
3. 証明書の有効期間内であること(更新が必要)

※PEの課税方法がH26年に「総合主義」から「帰属主義」に変更になりましたが、「免除証明書」の対象所得はPEに帰属するものだけに限られます。
従ってCさんのPE以外からの所得は免除証明書対象外になります。

      Ⅳ.  ま と め     

以上より、
*日本人Aさんは、日米の租税条約を検討して米国書式W-8BENにより、
*米国人Bさん、日米の租税条約を検討して日本の様式1の提出により、
*豪州人Cさんは、豪日の租税条約を検討して日本のPEの免除申請により、
それぞれ1つの収入に対して、多くの税金を払わないように、軽減や減免を受けることができるようになります。

====== おわりに =====

国際課税では「PEなければ課税なし」との言葉が長年呪文のように唱えられています。これはどの国においてもPEに課税するということは、税収源として重要なポイントになっているからです。

ところが、今では音楽や映画、書籍までもPEがなくても世界中で商売ができるようになってきました。まさに国家の垣根をこえたデジタル商取引の時代になったと言えます。

わか国日本では、デジタル庁創設も目前に控えており、マイナンバーなどのインフラ整備と共に、デジタル商取引は一般化されるのでしょう。
国際課税の世界では「PEなくても課税はできる・・」と言うように、呪文が近年改正される兆しになっています。

同時に、デジタル商取引のみならず、わが国では10月から徐々に国際間交流も開始されはじめるようで、リアル取引である航空業界も少しずつ元気を取り戻せるのではないでしょうか。

文責:金田一喜代美

※税務的な記述は、個人と租税条約に関する基本的なアウトラインに留まります。
法人の取り扱いを含め、実際の判断と手続きについては専門家におたずねください。

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参考)
★Carried interest
米国における投資ファンドの一種であるが、このプライベートエクイテイファンドから受け取る分配金が、キャピタルゲインであるのか役務提供報酬としてのプロフィットなのか、もしくは資本払い戻しによる現物支給なのか等の判定が複雑であり、これにより課税方法や優遇税率の判定が異なる米国での金融商品。Sec.702, 704 近年の投資ファンドでも多く運用されている。

★恒久的施設(PE:Permanent Establishment)
PEへの課税とは、日本に支店や工場、倉庫などの拠点をもって商売をした場合、その利益について課税します。例えば日外国法人の日本支店などです。日本に拠点を構えず、外国から日本の輸入業者等を通じて日本に販売する事業ならその売上には課税しないとなっている。(所得税と法人税法上で規定:所法2①八の四、所令1の2、法法2の一二の一九、
法令4の4)

★豪州における 外国人保有不動産の上乗せ税
豪州の不動産を外国人が多く購入することで不動産価格が高騰し、現地国の方が購入しずらくなくことを抑えるために、外国人の保有不動産(居住用)には上乗せ税がある。ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州、クイーンズランド州、西オーストラリア州、南オーストラリア州は譲渡税に7~8%上乗せ、保有税として1.5~2%上乗せ等。また新築しか購入できない等の規制がある。

★日本の 投資信託の収益分配金の税率

(税務・法務モバイルブック2020 P174より)

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《参考書籍等》
*税務・法務モバイルブック2020(辻・本郷 税理士法人編)
*国際源泉のしくみと税務調査のポイントがわかる本(税務経理協会)
*国際源泉課税(税研)
*国際課税(大蔵財務協会)
*国際課税における重要な課税原則の再検討(上巻)日本租税研究会
*租税条約の論点(中央経済社)
*OECDモデル租税条約コメンタリー解説(租税研究会)
*租税条約適用届出書の書き方(租税研究会)
*投資ファンドとCarried interest課税:その構造と問題(租税研究2009・8)
*アメリカ・パートナーシップ所得税の構造と問題
*所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国政府との間の条約(日・米租税条約)/外務省HP
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty159_1.html
*日米租税条約のポイント/財務省HP
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/press_release/sy151107_index.htm
*所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオーストラリアとの間の条約(日・豪租税条約)/外務省HP
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty169_13.html
*Victor Fleischer, Two and Twenty : Taxing Partnership Profits in Private Equity Firms,83 NYU L,Rev.1(2008)
*What is carried interest, and how is it taxed?
https://www.taxpolicycenter.org/briefing-book/what-carried-interest-and-how-it-taxed
*Capital Gains Tax
https://www.investopedia.com/terms/c/capital_gains_tax.asp
*Japan-Tax Treaty Documents
https://www.irs.gov/businesses/international-businesses/japan-tax-treaty-documents
*Instructions for Form W-8BEN
https://www.irs.gov/pub/irs-pdf/iw8ben.pdf